平成日本今話 『アナグマ長者』
- 2016/04/11
- 07:15

時は平成、泰平の世。
九州は火の国熊本で実際にあったお話───
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サラリーマン猟師の故郷は、九州は熊本県。

息子が生まれてから初の里帰りをしており、思い出の地を妻子と母連れで漫遊していた時のことだった。
山道のドライブで、道路脇に黒い塊が見えてきた。
近づくとアナグマの轢死体だということがわかった。

『アナグマだっ!!ロードキルされたアナグマッ!!!』
とサラリーマン猟師は叫んで急ブレーキを踏んだ。
急ブレーキに驚く嫁御と母親。
サラリーマン猟師は車を降りてアナグマに近寄ると、ハエがたかっておらず、頭から流れる血が固まっていないことに気づいた。
さらに、手足を持って屈伸運動をさせてみると、まだ肉球に体温が残っており、死後硬直もないことから、死後間もないものだと推察した。
アナグマの肉といえば、坂東の都では幻の肉とも言われる一品。
サラリーマン猟師は、これぞ天の恵みと喜び勇んだ。
『ねぇ!それ、まさか持って帰るとか言わないよね!?』
車の中から問うてきたのは、サラリーマン猟師の嫁御。
嫁御は、過去に数度、タヌキの轢死体を持ち帰ってきた夫に対し、烈火のごとく怒り狂ったことがある。
動物の死骸を持ち帰るなど言語道断だった。
『ばっ!なんてねっ!? あた、ばかんごつ、そば持って帰るてなんば考えとっと!?』
訳:え!何!? あんた、馬鹿なこと言わないで。その死体を持って帰るなんて何考えてるの!?
母親は、己が息子の奇行を目の当たりにして、声を荒げた。
『持って帰って、こんアナグマの供養ばすっとたい!喰い供養ば!』
訳:持ち帰って、このアナグマの供養をするんだよ。喰い供養をね!
母の口調に腹が立ったサラリーマン猟師も感情的に言い返した。
母 『そぎゃんと、誰かが片づける!あた、車に幼子が乗っとっとばい!ダニんでん刺されたらどぎゃんすっと!?』
訳:そんなことは、他の誰かがやってくれる。あんた、車に幼児がいるのよ。ダニにでも刺されたらどうするの?
サ 『誰かて誰か!? 最初に見つけた人が供養してやらんといかんと!』
訳:誰かって誰のことだよ!? 最初に見つけた人がやってあげないと!
母 『誰かがやってくれるて!うっちょいていきなっせ!』
訳:誰かがやってくれるよ。そのままにして行きましょう。
サ 『馬鹿かて!そぎゃん可哀想なこつできっか!』
訳:馬鹿野郎! そんな可哀想なことはできん!
嫁御 『お願い止めて!車に乗せるのだけはやめてーーー!!』
アナグマを車に乗せる乗せないの討論の最中、一台の白い軽トラックがサラリーマン猟師一行の前にとまった。
というよりは、細い林道であり、サラリーマン猟師一行が道を塞いでいたのだ。
サラリーマン猟師は、しめたとばかりに、軽トラに駆け寄り、
『アナグマが死んでいたのです!袋を、大きめのビニール袋をお持ちではありませぬか??』
と尋ねた。
軽トラックを運転していたのは、60代くらいの女で、椎茸農家と思われた。
積み荷は文字通り山ほどの椎茸だったからだ。
女は、特段疑問を浮かべる様子もなく、助手席にあった白いビニール袋を2枚渡した。
サラリーマン猟師は、椎茸農家の女性にお礼を述べてから、軽トラックが道を進めるように、車を退けた。
そして、嫁御と母に向かって
『袋を二枚に重ねれば文句ないだろう!!』
と高圧的に言い放って、袋に入れたアナグマをトランクに積んだ。
嫁御と母親は呆れ果てたのか、その後家路につく間、一言も会話をしなかった。
さて、なんとか車には積めたものの、まだアナグマの内臓は摘出されていない。
いかなる動物も原則として、死後すぐに内臓を抜き、冷却しないと良い肉にはならない。
いかがしたものかと思案しながら林道を進むと、ほどなくして集落が見えてきた。
サラリーマン猟師は、この集落でナイフを借りて、道中通りかかった沢で内臓を出して冷却しようと考え、目についた一軒に入った。
『御免!無理な願いと承知だが、ナイフをお借りしたく!』
すると、そこにいたのは先ほど、林道でビニール袋をくれた椎茸農家の女性であった。
かくかくしかじかでと訳を話すと、潔く包丁を貸してくれた。
やや錆びた古い包丁であったが、それで十分だった。
サラリーマン猟師は、元来た道を沢まで引き返し、アナグマの腹を開け、内臓を取り出すと、石を重しにして沈めた。


その作業をしている間に、包丁を貸してくれることがどれほど親切なことかということを考えた。
得体が知らず、しかも動物の死体を持った男が、突如「包丁貸してくれ」なんて言ってきたら、素直に包丁を貸すだろうか?
いや、あり得ないだろう。
仏のような人が世の中いるものだ
普通だったら、追い払って塩まくものであろう。
アナグマの冷却も済み、包丁を返しに行くと、なんと今度はその椎茸農家はシイタケを持って帰れという。
コンビニ袋の一番大きな袋にシイタケを詰めろといってくるではないか。

あまりの親切さに、実はこの女性は山姥で、我ら一行を獲って食おうとしているのではないかと勘ぐってしまったほどだ。
無礼なりにも勘ぐりはしたが、肉厚で芳香なシイタケの香りで欲が勝るものはない。
これは上物のシイタケだ。
ビニール袋一杯となると、3,000~4,000円はくだらん。
と、遠慮なしに袋がはち切れんばかりにシイタケを詰めると、椎茸農家の女性に深くお礼を言って、家路についた。
帰宅すると、もらったシイタケをバターと醤油で炒めて、夕餉の膳に添えた。

美味すぎる。アワビよりも旨いと言える。
嫁御も母も、こんな肉厚で美味しいシイタケは初めて食べたと大満足。
一時険悪になった家族の中も、シイタケのおかげで円満となったのである。
さらに数日後、福岡に住む知り合いの猟師の家にアナグマとシイタケを持っていくと、アナグマを肉にするのに解体場を使わせてくれ、さらにはシカ肉BBQまで振舞ってもらった。




こうしてサラリーマン猟師は、生涯忘れられない思い出作りができて、有意義な里帰りを過ごした。
めでたしめでたし。
後に人々は、この話を昔話の「わらしべ長者」と合わせて、「アナグマ長者」と呼んだそうな。
冴えない三十路サラリーマンでも、平素から健気に、品行方正に暮らせば、いいこともあるよという例えです。
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さてこのアナグマですが、冬眠明けなのか、肉はわずかだったのですが、2016/4/30 闇ジビエBBQにてお出ししたいと思います。
4/30に闇ジビエBBQを、東京あきる野で開催します! 風呂場解体オムツ熟成イノシシの他、タヌキ、アナグマ、ハクビシンなどを食べて当てるというゲーム式でやりたいと思います。
— サラリーマン猟師 (@TaketoOgawa) 2016年4月2日
詳細は、近日中に。
♯あきる野 ♯ジビエ ♯狩猟 pic.twitter.com/4wtvQJegey
運気上昇間違いなし!
4/30は、東京あきる野へおいでやす~
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